• 一斉人工林施業においては、林分が閉鎖してから伐期までに間に、林分の密度を調節すること。
    • 一斉林:同齢単純林(樹齢が同じで、単一樹種からなる森林)
  • 一斉人工林施業においては、初期保育の下刈り・除伐が種間競争の緩和であるのに対し、間伐は種内競争の緩和である。
    • 種内競争の緩和という見方は、単一樹種の森林を造成するときの見方である。
  • 間伐の本質は、樹冠を管理する技術である。
    • 樹冠の管理とは、着葉量を管理するということ。
  • 間伐木を収穫しない伐り捨て間伐(伐り置き間伐)と収穫する利用間伐(収穫間伐)とがある。
  1. 間伐の目的
  2. 間伐の理解
  3. 混み合い度の指標
  4. 間伐(選木方法)の種類
  5. 選木作業の基本
  6. 間伐作業(伐採)の進め方と安全管理
  7. 間伐と前作業・後作業の関係

10.1. 間伐の目的

  • 個体の適切な成長を確保する。
    • 個体当たりの着葉量を適切に制御することで、目標とする肥大成長量を確保することができる。
    • 本数密度が高い状態が続くと個体当たりの着葉量が増えないまま推移し、肥大成長量が徐々に小さくなる。
  • 育成する個体を選抜する。
    • 多くの林木の中から、優良な個体を選ぶことができる。
    • 限られた資源(光・土壌養分)を優良な個体により多く配分することができる。
  • 森林の健全性を維持する。
    • 個体当たりの着葉量が適切に維持されれば、肥大成長が衰えず、がっしりとした樹形を維持できる。
    • がっしりとした樹形かどうかは、形状比(樹高/胸高直径)で評価することができる。形状比が高い(樹高の割に幹が細い)とヒョロヒョロの樹形、形状比が低い(樹高の割に幹が太い)とがっしりとした樹形(ずんぐりむっくりの樹形)である。
    • 本数密度が高い状態が続くと林木の形状比が高くなり、強風や冠雪に対する抵抗力が低くなる。
    • 本数密度が高い状態が続くと林木の根系がしっかりと発達せず、土壌を緊縛する力が低くなる。
  • 地力を維持する。
    • 間伐により林冠に空間ができると下層植生が発達する。
    • 下層植生があると、表層土壌が流亡しにくくなる。
    • 下層植生に由来する落葉・落枝が供給される(落葉・落枝が多様な組成になる)と、地力の維持にプラスの作用を及ぼすと考えられる。
  • 木材を収穫する。
  • 林型を整える。
    • 間伐は、単木単位で見れば樹冠を制御していることになるが、林分全体で見ると林型(森林の姿)を制御していることになる。
    • 間伐によって、最終的に目指す林型(主伐時の林型;目標林型という)をつくりあげていくということ。

10.2. 間伐の理解

  • 間伐の理論を理解するためには、以下のことを理解する必要がある。なお、森林についての解説は、一斉林におけるものである。
  • 樹木個体の成長と樹冠の関係
    • 樹木の成長は、伸長成長と肥大成長とからなる。
      • 伸長成長は、頂端分裂組織によって行われる、シュートの伸長である。
      • 肥大成長は、維管束形成層での細胞分裂による木部(材)と師部(樹皮)の形成である。
    • 新しい葉は、新しく伸びるシュートにつく。すなわち、シュートが伸びることで葉もつくられる。
      • 着葉量は、シュートの数に比例する。
      • 着葉量は、シュートの伸長量に比例する。
    • 樹木の地上部は、シュートの積み重ねである。
      • 過去のシュートが幹・枝となり、新しいシュートを支える。
      • この積み重ねの結果、樹冠が形成される。
      • 主軸の先端におけるシュートの伸長が、樹高成長となる。
      • 枝の先端部におけるシュートの伸長が、樹冠の拡張に貢献する。
      • 樹冠が光合成により同化物を生産する場所であり、そこでつくられた同化産物が樹冠を支える枝や幹に配分される(枝や幹が肥大成長する)。
    • 樹冠は、その個体が獲得した空間である。
      • 他個体より高い位置に樹冠を獲得できれば、光合成に有利になる。
      • 広い空間を獲得できれば、着葉量が多くなり、肥大成長量は大きくなる。
    • 樹木が、樹冠の大きさが変わらないまま成長すると、幹の肥大成長は徐々に小さくなる(年輪幅が徐々にせまくなる)。
      • [理由]同化産物は形成層に分配される。樹木が成長するほど、幹の直径が太くなり(幹の周囲長が大きくなり)、幹全体の表面積が大きくなる(幹の形成層の表面積が大きくなる)。一方で、樹冠の大きさが変わらなければ、着葉量も変わらず、そこでの同化産物量も変わらない。同化産物量が変わらない中、それが配分される総面積が大きくなれば、単位面積当たりの同化産物量は小さくなる。
    • 樹冠の大きさは、樹冠長、樹冠幅、樹冠投影面積で指標できる。
      • 樹冠長:樹冠の縦の長さ
      • 樹冠長を数値化するときは、樹高から枝下高を引いた値で代用する。
      • 樹冠幅:樹冠の横の長さ
      • 樹冠投影面積:樹冠を水平面に投影したときの面積
      • 樹冠投影面積を数値化するときは、樹冠幅から計算で求める。
      • 一般に、樹冠長と樹冠幅は比例する。
  • 樹冠と林冠の関係
    • 森林の最上層は、多くの個体の樹冠で形成される。これを林冠と呼ぶ。
    • 森林全体の着葉量(≒林冠の着葉量)は、樹種によりほぼ一定の値をとる。
    • 森林には多くの個体が生育するため、各個体の樹冠の大きさは、隣接木との競合の結果により決まる。
    • 林冠を構成する個体の数が多ければ、個体当たりの樹冠の広さ(樹冠投影面積)は小さくなる。
  • 森林の発達と本数密度の関係
    • 森林が発達するにつれ、林分の本数密度は低くなる。
      • [理由]個体間競争による自然枯死が発生し、本数が減少する。
    • 個体間距離が変わらないまま(間伐が行われないまま)森林が発達するとき、各個体の樹冠幅・樹冠投影面積は変化せず、樹高が高くなっていく。
      • 樹冠幅・樹冠投影面積が変化しなければ、樹冠長も変化しない。そのため、樹高成長に伴って、樹冠はその大きさのまま、見かけ上で上方に移動する。
      • ふつうは、林齢が高くなれば平均胸高直径も大きくなるが、樹冠の大きさが変わらないまま林齢が高くなる場合は、林齢ほどには胸高直径は大きくならない。
    • 林分の平均胸高直径が大きいほど、本数密度は低くなる。
    • ある範囲の林齢でみれば、林分の平均胸高直径は、林齢よりも本数密度との関係が強い。
  • 林分内における個体サイズと樹冠の関係
    • 一斉林であっても(同じ樹種が、一緒に植えられても)、個体間にサイズ差が生じる。
    • ふつう、最初についた個体間のサイズ差は、林齢が進むにつれ大きくなる。

10.3. 混み合い度の指標

  • 林木の混み合い度を客観的に評価できる、以下の指標がある。
  • これらは、どれも樹高を基準にした指標である。
    • [理由]林木(上層木)の樹高成長は、密度の影響を受けにくいので、その林分の発達段階を示す基準として適している。
  • 収量比数(Ry)
    • 林分密度管理図における、最多密度曲線(ある樹高での本数密度の上限)に対する相対的な混み具合(材積比)。0~1の値をとる。
    • 林分密度管理図は、地域ごと、樹種ごとに作成されている。当該林分が相当する管理図を用いること。
    • 林分密度管理図を用いて、平均上層樹高と本数密度で読み取る。
    • 最多密度曲線の数式があれば、計算で求めることもできる。
    • 指数の見方:収量比数が0.8以上は密、0.6以下は疎とみる。
    • 林分密度管理図は、もともとは短伐期施業に対応するものとしてつくられているので、標準伐期齢の2倍を超えるような林分においては参考程度にとどめておくのがよい。
    • 本数密度を用いるので、間伐により成立本数が減少すれば、収量比数も小さくなる。このことから、収量比数の変化量は間伐強度の指標として用いられてきた。ただし、下層間伐に対してしか適用できないことに留意する必要がある。
  • 相対幹距比・相対幹距(Sr)
    • 上層木の平均樹高に対する、平均個体間距離の割合。
    • 平均個体間距離は、本数密度から次式により求める。植栽間隔の求め方と同じ。
      • 平均個体間距離(m)= (10000 / 本数密度(本/ha))1/2
    • 相対幹距比は、百分率(・・%)、もしくは単位なし(0.・・)で表す。
    • 指数の見方:相対幹距比が20%程度であれば適切な混み合い方、17%以下は間伐が必要な混み合い方、14%以下は早急に間伐が必要な混み合い方であるとみる。
      • 最近の研究(吉田ら2018)で、高齢林の過密の判定基準は15%が適当であると指摘されている。
    • 収量比数に比べると、樹種ごと・地域ごとに林分密度管理図を準備しなくてもよい、下層間伐にしか適用できないという制限がない、という点で相対幹距比の方が汎用性が高い。
    • 平均樹高が高い林分では、本数密度の変化量に対する相対幹距比の変化量が小さい。高齢林で相対幹距比を混み合い度や間伐量の目安に用いるときは、注意を要する。
  • 形状比(H/D)
    • 個々の林木について、樹高(cm)を胸高直径(cm)で除した値。
    • 同じ単位の数字で割り算した指数なので、形状比に単位(%)は付けない。
    • 形状比は、その林木の過去の成長過程の結果(主に競争の結果)を示す。
    • 形状比で、風害・冠雪害に対する危険性を評価できる。形状比が80を超えると危険、100を超えるとかなり危険である。
    • 高齢林では、形状比60~70以下を目標とする。
  • 樹冠長率
    • 樹高に対する、樹冠長(樹高-枝下高)の割合。
    • 樹冠長率は、その林木の過去の成長過程の結果(主に競争の結果)を示す。
    • 樹冠長が40%以下の林木が多ければ混み過ぎであるといえる。
    • 樹冠長が20%以下になると、樹高成長が低下すると指摘されている。
  • 各指数の使い方
    • どの指数も樹高を基準とすることから、これらの指数を用いる場合は樹高の正確な測定が欠かせない。
    • 林分の混み合い度は、どれか1つの指数だけで評価するのではなく、複数の指数を用いて総合的に評価するとよい。

10.4. 間伐(選木方法)の種類

  • 間伐は、間伐木の選木方法によって、いくつかに類型化されている。
  • 下層間伐
    • 主に劣勢木や欠点のある木を伐る間伐方法。
    • 育成木は、優勢木・準優勢木が主体となる。
    • 間伐後の気象害の危険性は低い。
    • 間伐による直径成長の促進効果は低い。
    • 伐り捨て間伐になることが多い。収穫をしない場合、保育間伐と呼ばれる。
    • 初回の間伐は、この下層間伐で行うことが多い。
  • 上層間伐(優勢木間伐)
    • 育成木を選び、その成育を妨げる林木を伐る間伐方法。
    • 通常、育成木は優勢木・準優勢木から選ばれる。
    • 育成木を優勢木・準優勢木から選べば、間伐木も必然的に優勢木・準優勢木となる。
    • 生産目標や目標林型により、育成木を優勢木主体とするか、準優勢木を主体とするかが変わる。
    • 長伐期施業での2回目以降の間伐は、この上層間伐で行うとよい。
    • 上層間伐と択伐的間伐を同じものとする見解もあるが、ここでは、森林の育成を主目的とするものを上層間伐として、両者を分けて考えている。
  • 択伐的間伐(なすび伐り)
    • 利用のための伐採に重点を置いた間伐方法。
    • 一定径級以上の林木、規格にあった形質と大きさに達した林木を伐採木とする。
    • 間伐木が優勢木・準優勢木となるので、間伐後には(間伐前の)準優勢木や劣勢木が残る。
    • 育成木を選抜する方式ではないので、間伐によって林分の質は良くなることはなく、むしろ劣化することが多い。
  • 機械的間伐
    • 間伐木を機械的に決めて伐採する間伐方法。列状間伐が代表的。
    • 間伐前と間伐後で、優勢木と劣勢木の比率、優良木と不良木の比率は変わらない。
    • 間伐によって、林分の質は良くならないが、劣化することもない。
  • 将来木施業
    • 近年、ドイツ(将来木施業)から紹介された間伐方法。
    • 単木管理をする間伐方法で、初回の間伐時に最終の収穫時まで育てる個体(将来木と呼ぶ)を選抜し、その成育を妨げる林木を間伐する。
    • 予め将来木の本数を樹種と目標径級とから決め、その本数分の将来木を選び、いつでもそれとわかるように幹にマーキングをする。
    • 将来木・育成木1本に対して、1~2本の間伐木を選ぶ。
    • オリジナルの将来木施業では、将来木に対して選ばれた間伐木だけを伐採する。それ以外の立木は伐採しない。
  • 間伐方法の選択
    • どの方法で選木するかは、森林経営の戦略と、生産目標・目標林型を考えて決める。
      • 例えば、並材生産なのか優良材生産なのかや、目標径級をどこに設定するかなど。
    • 間伐後の気象害の危険性については、必ず考慮すること。
    • ここに示したのはあくまで類型であり、そのどれかに固執する必要はない。
      • 複合的な方法もあり得る。例えば、1伐3残の列状間伐に、残存列における下層間伐を組み合わせるなど。
    • 毎回の間伐をおなじ方法で行う必要はない。森林の発達段階などに応じた間伐方法をとることが重要である。

10.5. 選木作業の基本

  • 最初に、林分の現況を把握するための調査を行う。
  • 調査結果から、林分の現況を評価する。
    • 本数密度と上層木平均樹高から、立木の混み合い度がわかる。それにより、間伐の必要性や緊急性がわかる。
    • 林齢と上層木平均樹高から、地位がわかる。
    • 林齢と平均樹高と地位級別樹高成長曲線から、樹高の将来予測ができる。
    • 胸高直径階分布から、資源の現況がわかる。
    • 胸高直径階分布から、将来の資源の形を想定できる。
    • 形状比や樹冠長率から、現時点での個体や林分の健全性がわかる。それにより、間伐の必要性や緊急性がわかる。
    • 樹冠長率から、個体や林分の将来性(大径木生産の可能性)がわかる。
    • 優良木の本数や割合から、林分の経済的価値(プラス要素)がわかる。
    • 気象害や獣害の被害木の本数や割合から、林分のマイナス要素がわかる。
    • 気象害や獣害の有無から、将来に起こりうる被害を予測できる。
    • 地表面の状態・下層植生から、林分の健全さがわかる。それにより、間伐の必要性や緊急性がわかる。
    • 下層植生から、おおよその地位がわかる。
  • 生産目標・目標林型をすでに持っていれば、それが達成可能かを現況から判断する。
  • 生産目標・目標林型がないなら、現況からそれを設定する。
  • 間伐方法(選木方法)を検討する。
  • 本来であれば、ここまでの作業を行った技術者が現地での選木作業をするとよい。
  • 初回の保育間伐、機械的間伐を除いては(主に上層間伐では)、まず育成木(広い意味で将来の収穫を期待する林木;この先も育てていきたい木と考えればよい)を選び、その成長を阻害する林木を間伐木として選木する。
    • 間伐後の林木間の位置関係をよくイメージして選木すること。
      • [理由]間伐後の林木間の位置関係が、その後の競争に大きく影響する。
  • 選木を一通り終えたら、間伐率を求め、間伐強度が妥当かどうかを検討する。
    • 間伐率(間伐前の数値に対する間伐木の数値の比率)には、本数間伐率・材積間伐率・断面積間伐率がある。
    • 間伐強度を正しく示すのは、材積間伐率と断面積間伐率である。
      • 民有林の現場や行政では、本数間伐率が使われることが多い(治山事業では材積間伐率が使われる)。補助金などの関係から本数間伐率で示す必要がある場合でも、材積間伐率・断面積間伐率を求めて、実際の間伐強度を確認することが大切である。
  • 間伐強度が妥当でないときは、選木を調整する。
    • 妥当な間伐強度は、現存林分の状況、気象害(風害・冠雪害)の危険性、次回の間伐計画などにより異なる。
  • 妄信的に、間伐率を決めて間伐に臨むことは避ける(列状間伐は除く)。
    • 間伐は森林経営や森林管理において、きちんとした戦略を持って臨むべき重要な作業である。
    • 数字が先に立つと、生物としての林木、生物集団としての森林と対峙するという意識が薄れてしまう。

10.6. 間伐作業(伐採)の進め方と安全管理

  • 林分の状況、伐倒作業・造材作業・搬出作業に使用する機器などにより、間伐の進め方は実に多種多様である。
  • 作業の進め方により、必要な安全管理が異なる。
  • 伐採以降の作業の進め方と安全管理は、それら専門の解説に譲る。

10.7. 間伐と前作業・後作業の関係

  • 間伐は植栽木の本数を調整する作業であるので、植栽密度が大きく関係する。
  • 間伐は主伐時の林型(目標林型)に向けて林型を整えていく作業であるので、主伐や次回以降の間伐の計画に合わせて今回の間伐を設計する必要がある。
  • これらの前作業・後作業のどちらも、今回の間伐との時間的な隔たりが大きい。長期的な視点で、施業全体を見通すことが必要となる。
    • このことは間伐に限ったことではない。森林施業では、常に長期的な視点で全体を見ること、また、その中に各施業を位置づけることが大切である。