9.1. 枝打ちの目的
- 無節材を生産する。
- [理由]枝を除去すれば、その後に形成される材に節はできない。
- これが、枝打ちの主目的である。
- 年輪幅を一定にする、あるいは小さくするために、個体の肥大成長を抑制する。
- [理由]葉を除去すれば、同化量が減り、肥大成長は抑制される。
- この目的のときは、生きている枝を切除(生枝打ち)する。
- ふつう、この目的の枝打ちは間伐(密度管理)と組み合わせて実施する。
- 林内の光環境を調節する。
- [理由]上にある葉を除去すれば、それより下層の光環境はよくなる。
- この目的のときは、生きている枝を切除(生枝打ち)する。
- 択伐林施業における下層木の保育や林床植生の育成を目的とする場合がこれに相当するが、間伐の方が有効であることが多い。
- 病害虫を回避する。
- [理由]枯枝が生じなければ、スギノアカネトラカミキリの加害や非赤枯性溝腐病(スギの場合)の罹病を防ぐことができる。
- [理由]林内の風通しをよくすれば、湿度が高い状態で発生しやすい枝枯性病害や葉枯病を防ぐことができる。
- 実際は、これらの目的のためだけに枝打ちをすることはまれ。
- この目的のときは、生きている枝を切除(生枝打ち)しなければ意味がない。
- 林内の歩行性・見通しをよくする。
- [理由]人の背丈より低い位置に枝がなければ、見通しがよくなり、かつ歩きやすくなる。
- この目的では、人の背丈より低い位置の枝を除去(裾枝払い)すればよい。
9.2. 枝打ちの理解
- 枝打ちの理論を理解するためには、次のことを理解する必要がある。
- 樹木の体の基本単位はシュートであり、シュートが積み重なって樹形が形成される。
- 枝もシュートが積み重なってできている。その先端に葉がつき、そこで光合成が行われる。したがって、葉を支える枝は、樹木の成長にとって、とても重要。
- 若いときに形成されたシュート(低い位置のシュート)の多くは、樹木が成長する過程で枯れ、脱落する。
- 枝は、枝ごとの収支(光合成による生産と呼吸による消費)がマイナスになれば枯れる。
- 陽樹冠(陽光を直接的に受ける樹冠;陽葉からなる)を形成する枝は、幹の肥大成長に貢献する。
- 陰樹冠(隣の樹冠と接する部分より下方の樹冠;陰葉からなる)を形成する枝は、幹の肥大成長への貢献度が低く、近いうちに枯れる可能性が高い。
- その枝が生きているときに材に取り込まれた節(生節)は、材と枝とに組織的なつながりがある。板目取りで板に製材しても、節が抜けることはない。
- 枯れてから材に取り込まれた節(死節)は、材と枝とに組織的なつながりがない。そのため、板目取りで板に製材すると、節が抜けることがある。
- 切除した枝の切断面が大きいほど、その巻き込みには時間がかかる。
- 切除して残った枝の長さ(残枝長)が長いほど、その巻き込みには時間がかかる。
- 切除した枝の切断面が完全に巻き込まれても、しばらくは年輪に乱れが生じる。それがなくなり、年輪が平滑になった外側が本来の無節となる。
- 枝打ち時に次のような傷をつけると、材部に変色(ボタン材)が発生する。
- 幹・枝隆部の材部に達する傷
- 幹・枝隆部の樹皮の剥がれ
- 残枝の割れや裂け
9.3. 枝打ちに必要な器具・道具
- 枝打ち作業には、木に登るための器具と枝を打つための道具、安全を確保するための装備が必要。
- 木に登るための器具
- 枝打ち梯子(1本梯子・ムカデ梯子)
- 幹に立てかけて使うアルミ製の梯子。1本の支柱の両側にステップがついている。ステップが互い違いに付いているものもあるが、その場合でも最上部の数段は両側にステップがある。
- 枝を打ち上げる高さに応じて、1本で、もしくは2~3本をつなげて使用する。どの場合でも、最上部の梯子は両側にステップがあるものとする。
- 木に装着するのは簡単。ただし、梯子を幹の山側に正対させて、できるだけ鉛直に立て、土突をしっかり地面に打ち込まないと、人が登ったときに梯子が回転することがあるので注意すること。
- 梯子が木から外れないよう、ロープを使って、梯子を幹にしっかりと固定すること。
- つなげて使うときは、梯子を持って林内を移動するのが大変。
- ワンタッチラダー(商品名)
- 幹に直に装着して使う、1本梯子。
- 枝打ち梯子より軽いく、長さが短いので、持って歩くのは楽。
- 自重・体重がかかることで、幹から外れなくなる。
- ブリ縄
- 梯子に比べて軽い。
- 任意の高さに登ることができる。
- 装着に技術を要するが、慣れれば使い勝手がよい。
- その他に多様な木登りのための器具がある。
- 枝打ち梯子(1本梯子・ムカデ梯子)
- 枝を打つための道具
- 手ノコ
- 枝打ち用の手ノコ(アサリのないもの)を使うこと。
- ナタ
- 枝打ち用のナタ(両刃)を使うこと。各地に独自のナタがある。
- ナタによる枝打ちは、相応の技術を要する。
- 鎌
- 最初に行う細い枝の枝打ち(ヒモ打ち)に使うとよい。
- 手ノコ
- 安全を確保するための装備
- ヘルメット
- 防護メガネ
- 安全帯
- 望ましい服装
- 長袖・長ズボン(裾仕舞いがいいもの)
- 手袋(軍手は不可)
- 袖が開いている上着のときは腕カバーがあるとよい
- 作業しやすい靴(地下足袋がよい:金属スパイクが付いていないもの)
9.4. 枝打ち作業の時期・季節
- 枝打ちはふつう、何回かの枝打ち作業を数年の間を置いて行う。
- 枝打ちの適期は、枝を打つ部分の元側の幹直径が、ある直径に達するより前である。ある直径とは、それより太くなる前に枝打ちを終えていなければならない幹の太さであり、幹の中心部分のどの範囲内に枝を閉じ込めなければならないかによって決まる。
- 例えば、10.5cmの芯持ち柱材が目標の場合は6cm、12cmの芯持ち柱材の場合は7cmが目安となる。
- 2回目以降の枝打ちの適期も、同様に考える。
- 最後の枝打ちは、その枝打ちで必要な打ち上げ高に達したときである。すなわち、必要な打ち上げ高に達するまで、枝打ちは続けなければならない。
- 3m材が目標であれば、打ち上げ高は3.5~4mとなる。3m材を2玉、あるいは6m材が目標であれば、打ち上げ高は7mくらいとなる。
- 大径材生産が目標であれば、幹直径が上記より太くてもかまわない。ただし、枝打ちが遅れるほど、幹が太くなり、枝も太くなるため、無節材生産には不利になる。
- [理由]幹が太くなれば、その分だけ節が現れる材部が多くなる。
- [理由]枝が太ければ、枝の切断面が大きくなり、巻き込みに時間を要する。
- [理由]枝が太ければ、枝打ち作業での傷の発生が増える。
- 枝打ち作業は、樹液の流動が停止している晩秋から冬の期間に行うとよい。
- [理由]樹液の流動が活発な時期は、樹皮が剥がれやすいので、作業時に傷が発生しやすくなる。
9.5. 枝打ち作業の進め方(ノコギリを使う場合)
- 地上で作業できない高さの枝を打つ場合は、適切な器具を使用して木に登り、安全を確保する。
- 枝元は様々な形状をしている。その形状に合わせて、正しい位置で打つこと。
- 枝隆がない枝は、幹に沿って、残枝がないように打つ。
- 枝隆が発達している枝は、枝隆を外して打つ。
- 幹・枝隆や残枝に傷をつけないよう、枝を切り落とす。
- 枝が太くなければ、上からノコギリを入れればよい。
- 枝が太ければ、最初に下からノコギリを入れ、次に上からノコギリを入れて切り落とす。
- 枝がさらに太い場合は、最初に幹から離れた部分で枝を切り落とし、さらに残った枝を切り落とす。
- 樹皮を切り終える前に枝が動き始めると、樹皮が幹に向かって剥がれる。これを防ぐためには、枝の下側を半周以上、樹皮だけでも切っておくとよい。
- 生枝を打つ場合、1回の打ち上げ高は、ふつう1m前後とする。
- [理由]生枝を打つ場合、1度に枝を打ち上げすぎると、その後の成長が減衰する可能性が高くなる。
- 生枝打ちでの打ち上げ高は、長くても1.5mくらいまでとする。
- 力枝を打たないようにするなど、枝の状況を見て判断することが大切である。
- 枯枝打ちの場合、打ち上げ高に制限はない。
9.6. 枝打ちの経済性(これからの枝打ちのあり方)
- 枝打ちは、無節材を生産する技術である。それを行わなければ、木材生産や林地の保全に支障をきたすわけではない。
- 無節材の需要が減少し、その価格もかつてほど高くない中、枝打ちの実施は、経済的な面から検討し、判断する必要がある。その際、生産目標を明らかにしておくことも大切である。
- 全ての林木を枝打ちする必要はない。
- どの木も同じ高さまで枝を打ち上げる必要はない。
9.7. 枝打ち作業の安全管理
- 以下の点に注意して作業すること。
- 樹上での安全確保
- 木に登るときは、必ず安全帯を装着する。
- 安全帯は、体の正しい位置に、正しく装着する。
- 雨天時は、器具や幹が滑りやすいので作業を控える。
- 刃物の操作
- 体(とくに頭)の近くで刃物を使う作業になるので、よく気をつけること。
- 幹に腕を回して体を固定させる場合、打とうとする枝の下に腕や手があると、打ち終えたときの勢いで腕や手に刃物が当たることがある。打ち終えたときの状況を予想して、腕や手の位置を決めたり、打ち終わりに注意したりすること。
- 作業者どうしの間隔
- 枝打ち作業をしている下に入らないこと。
- [理由]打ち終えた枝が落下する。
- [理由]場合によっては、刃物が落下する。
- 枝打ち作業をしている下に入らないこと。
- 林地を移動する際の転倒・転落
- 重い長尺物(梯子)を持って移動するので、木に引っかかったり、足下がふらつきやすかったりするので注意すること。
- 斜面での落石
- 移動の際に、上下に重ならないように。
- 熱中症・危険生物
- 冬期を中心にした作業になるので、夏場ほどの危険はない。
- 作業時期によっては、しっかりと注意すること。
- 樹上での安全確保