ミズナラの後生枝の発生起源と間伐がその発達に及ぼす影響

横井秀一・山口清
1996
日本林学会誌 78:169-174

著者抄録

ミズナラの後生枝の発生起源を確認し,その発生の特徴と間伐が与える影響について考察した。後生枝の全てに髄まで連絡するbud traceが観察され,ミズナラの後生枝は側芽に起源する潜伏芽から生じたものであると確認された。無間伐林分における後生枝は林分の発達段階や直径とは無関係に高い頻度で発生していたが,そのほとんどは発生して2年以内に枯死していた。一方,間伐林分では多数の後生枝が発達しており,そのほとんどは間伐の直前か間伐後3年以内に発生したものであった。これらのことから,ミズナラの後生枝は閉鎖林冠下でも樹種特性に依存する潜伏芽の存在により保障され,恒常的に発生していると推察された。そして,閉鎖林冠下の光環境は後生枝が生存するには不十分であるが,間伐による光環境の変化は間伐時に存在していた後生枝と間伐後に発生した後生枝の生存率を高くし,その発達を可能にすると考えられた。また,間伐後数年を経過した後に発生する後生枝はわずかであることがわかった。

ポイント

  • 後生枝は間伐したから発生するのではなく、閉鎖林冠下においても恒常的に存在する。
  • 閉鎖林冠かでは、後生枝は出ては枯れ、を繰り返している。
  • 間伐により林内が明るくなると、後生枝が枯れずに発達する。

施業のヒント

  • ミズナラをはじめとする広葉樹の多くは、後生枝が発生するのが当たり前だと考えて施業に臨む。
  • 間伐との後生枝の発達を抑制するには、後生枝(が存在する幹)に後生枝が発達するのに十分な光が当たらないようにすることを考える必要がある。

解 説

サイト運営人の学会誌掲載第一号の論文です(そんなこと、どうでもいいが)。自分の書いた論文なので、その内容をかいつまんで説明します。

岐阜県高山市のミズナラが優占する落葉広葉樹二次林の間伐試験地(間伐区3区と無間伐区2区)で、ミズナラの後生枝を調査しました。


調査1:ミズナラ上層木について、地上高6.5m(一部、6.0m)以下の樹幹に発生している後生枝の数を目測で、0本、1~10本、11~30本、31本以上の4階級に区分し、胸高直径を測定しました。

後生枝を持たないミズナラの割合は1.9~13.8%で、間伐の有無に関係なく多くのミズナラに後生枝が発生していました。ただし、無間伐区では後生枝数1~10本の出現頻度が高かったのに対し、間伐区では後生枝数31本以上の出現頻度が高いという差異がありました。
このことから、無間伐であっても、ミズナラには後生枝が発生することがわかりました。


調査2:間伐区で27本、無間伐区で5本のミズナラを対象に、地上高6.5m以下の樹幹から発生している後生枝の長さを測定し、芽鱗痕を数えることで後生枝の齢を推定しました。

無間伐区の生きている後生枝の齢は、1・2年のものが多く、齢が高くなるほど数が少なくなっていました。一方、枯れた後生枝は、1・2年生のものが全体の80%以上を占めていました。
これらのことから、無間伐区での後生枝は発生はするものの、その多くが2年以内に枯れていることがわかりました。

間伐区(2区)の生きている後生枝は、間伐前に発生した後生枝が32.9%・22.5%、間伐後の後生枝が67.1%・77.5%でした。
後生枝の齢分布は、どちらも1山型で、そのピークは間伐翌年あるいは間伐2年後でした。どちらも、そのピークを挟む3年間に発生した後生枝が、全体の75%ほどを占めていました。
このことから、間伐区での後生枝の多くは間伐前後の数年間に発生したものであることがわかりました。間伐によって林内が明るくなったことで、間伐前(無間伐の状況)に発生した後生枝が枯れずに生存を続け、間伐後に発生した後生枝もそのまま生き続けたからであると考えられました。ただ、間伐後の年数が経ると後生枝の発生がみられなくなる理由は、わかりませんでした。


調査3:間伐区・無間伐区それぞれから2本ずつのミズナラを伐倒し、地上高6m以下の幹を持ち帰り、後生枝の長さと齢を測定しました。また、樹皮を剥いで、木部の表面にある芽のような小さな突起の数を数えました。その後、後生枝の発生位置や小突起を含むように円板を採取し、横断面(小口面)あるいは放射断面に沿って帯鋸で断面を整え、彫刻刀で切削しながら後生枝から連続する組織をたどって、後生枝の発生起源を観察し、写真に記録しました。材片の一部は、軟X線発生装置を用いて写真に撮影しました。

切削で観察した後生枝(生:25本、枯:8本)の全てに、髄から連続する組織(bud trace)が確認されました。そのうち27本は幹の髄に、6本は枯れて巻き込まれている枝の髄に連絡していました。
軟X線写真からも、後生枝や小突起から髄に連絡する組織が見られ、これらも bud trace であると判断されました。


これまでは「間伐すると後生枝が発生する」を言われてきましたが、正しくは「間伐しなくても後生枝は発生する。ただ、暗い林内では発生した後生枝はすぐに枯れてしまう。間伐すると、そのとき生きていた後生枝と間伐後に発生した後生枝が枯れずに発達する」であることがわかりました。

この論文では言及していませんが、後生枝の振る舞いは前生稚樹のそれと同じであると思いました。